AIと守秘義務、訴えることのできない第三者

米国の二つの連邦裁判所が、AIと守秘義務について正反対の答えを出した。つねに同じ側へ傾く法的な非対称性についての分析。

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AIと守秘義務、訴えることのできない第三者

FBIが、証券詐欺で訴追された企業幹部ブラッドリー・ヘプナーの端末を押収したとき、捜査官はそこに新種の文書を三十一点見つけた。電子メールでもなく、メモでもなく、弁護人とのやり取りでもない。それは一般向けの人工知能プラットフォームとの会話だった。そこで彼は自分の防御方針を展開し、主張しうる事実上・法律上の論点を検討し、検察が何を突いてくるかを先読みしていた。これらの会話を交わしたのは大陪審への召喚状を受け取った後であり、しかも弁護人に求められたわけでもなかった。

2026年2月10日、ニューヨーク南部地区連邦裁判所のジェド・ラコフ裁判官は、これらの文書はいかなる保護も受けないと判断した。

同じ日、八百キロ離れた場所で、別の連邦裁判所が正反対の判断を下した。

二つの決定、二つの法理、ひとつの行為

Warner v. Gilbarco において、ミシガン東部地区連邦裁判所は、弁護人を立てずに訴訟を進めていた原告に対し、主張の準備にあたって生成AIツールを使った記録の提出を強制することを拒んだ。理由はひとつの言い方に収まる。AIプラットフォームは道具であって人ではない。文書を道具に入力することは、相手方に開示することとは違う。米国法が work product と呼ぶ訴訟準備資料の保護は、こうして生き残った。

書面理由が2月17日に公表された United States v. Heppner において、ニューヨークの裁判所は、被告人とプラットフォームとのやり取りは弁護士秘匿特権にも訴訟準備資料の保護にも含まれないと結論づけた。裁判所が拠り所としたのはプラットフォームの利用規約であり、そこには入力と出力が保存され、学習に使われ、公的機関を含む第三者に提供されうると書かれていた。それを知らされた利用者が秘密保持を合理的に期待することはできない。

どちらの結論も十分に成り立つ。弁護士の守秘は、相手が誰であれ第三者への開示があった時点で失われる。訴訟準備資料の保護は、相手方に開示された場合にのみ失われる。異なる二つの法理、同じひとつの行為、正反対の二つの帰結。

どちらの決定も検討していないのは、両者が共有している前提である。そして法の他の部分と突き合わせたとき、持ちこたえないのはまさにその前提だ。

誰もしない比較

顧客のファイルをホスティング事業者に預けることは、それ自体としては、守秘の放棄と扱われたことがない。

しかしホスティング事業者は、議論の余地なく第三者である。文書を自社の機器上に保持している。提出を強制されうるし、複数の法域で実際に強制されてきた。それでも、どの弁護士会も、どの裁判所も、どの職業規制機関も、そこからホスティングサービスの利用が原理的に守秘を破壊するとは導かなかった。

つまり分かれ目は、技術的な仲介者が存在するかどうかではなかった。仲介者はつねにいる。郵便は手紙を運ぶ。宅配便はファイルを預かる。通信事業者は通話をつなぐ。いずれも文字どおりの第三者であり、そのどれも存在するだけで守秘を失わせはしない。

ホスティング事業者を区別していたものは、判例が通常述べるよりも狭く、そして正確だった。読まずに保管していた。内容から何も推し量れなかった。自分が何を保持しているかを知る能力がなかった。

ホスティング事業者を守っていたのは、第三者という法的地位ではなく、自分が何を保持しているかを知りえないという技術的な不能だった。

この基準は二十年にわたり静かに働いてきた。誰も書き記す必要はなかった。この基準を破る仲介者がまだ現れていなかったからだ。

裁判官が実際に決めていること

基準がいったん言葉になると、2月の決定は性質を変える。

文書を生成AIに入力することを第三者への開示として扱う裁判所は、古い規則を新しい事実に当てはめているのではない。この特定の仲介者は他と違うと認定しているのだ。保管ではなく処理をしている、と。ハードディスクの内側では起こらない何かが、その内側では起こっている、と。

カンザス地区連邦裁判所は、2026年3月25日の Jefferies v. Harcros Chemicals で実務的な側面を率直に述べた。同裁判所は保護命令を、秘密でないものも含めた訴訟資料全体に拡張した。理由は、データはいったん開放型のAIツールに入力されると事実上回収できない、なぜならそれがモデルの学習に使われたからだ、というものである。保存は再交渉できる商業方針ではない。システムの動作そのものの性質である。

並べてみれば、これらの決定は、証拠法の語彙のなかで、法がサーバーに帰属させる必要のなかった能力を承認していることになる。

フランスの立場と、その基準が前提にしているもの

もっとも明快な言明は裁判所からではなく、職業規制から来ている。

フランスの全国弁護士会評議会 Conseil national des barreaux は、2024年9月に生成AIに関する最初の実務ガイドを公表し、続いて 2026年3月17日に職業倫理と人工知能に関するガイドを採択した 。前者は核心において断定的である。弁護士は守秘義務の対象となるデータを生成AIシステムに渡してはならず、これは依頼者の氏名についても、あらゆる戦略的・機密的情報についても等しく当てはまる。推奨される代替策は、識別要素を置き換えた仮名化データセットの上で作業することである。

フランスの立場についての実務家の注釈、とりわけ Baker McKenzie の守秘義務比較ガイド は、そこから四つの累積的条件を導き出す。守秘が生成AIツールの使用に耐えるのは、次のすべてを満たす場合に限られる。プラットフォームが完全な秘密保持を維持し、再利用も学習も第三者アクセスもないこと。弁護士または法律事務所の管理下でのみ運用されること。助言または弁護の職務に属する法的目的に用いられること。そして成果物が、システムの自律的な処理ではなく弁護士自身の推論を反映していること。

この最後の条件には立ち止まる価値がある。

守秘が保たれるためには、システムが自らの処理を加えていないことが必要だ。

このような言葉で書かれた基準は、システムに自らの処理を加える能力があると見なす場合にしか意味をなさない。書類棚が中の書類について推論していないことを求める規則など、誰も書かない。この条件が存在するのは、棚にはできないことを狙っているからである。

同じ暗黙の承認は、仮名化の勧告のなかにも潜んでいる。送信前に識別要素を置き換える必要があるのは、そうしなければシステムがそれらを結びつけ、保存し、あるいは何かを導き出しうると想定する場合だけだ。純粋な保管媒体であれば、この種の用心はまったく要らない。

読みたくないことと、読めないこと

反論はすぐに出てくる。ホスティング事業者もまた提出を強制されうるのに、なぜ一方の仲介者は守秘を失わせ、他方は失わせないのか。

答えは CCBE のヨーロッパ弁護士職務行為モデル規範 にあり、反論が想定するより精密である。ヨーロッパの弁護士は、協働者、職員、そして役務の提供にあたって用いるあらゆる者に対し、同じ秘密保持義務の遵守を求めなければならない。義務は連鎖に沿って伝わっていく。

ホスティング事業者はこの連鎖に組み込める。委託処理契約を結ぶ。秘密保持の約束を受け入れる。監査を受けられるし、違反すれば訴えられる。第三者は拘束されている。

入力された内容を保存し、それで学習する生成AIプラットフォームは、同じようには連鎖に組み込めない。妨げなければならないのが振る舞いではなく構造だからだ。入力データで学習しないという約束は、意図についての約束である。提供者に対しては対抗できるが、システムが何をするために作られているかは変えないし、外から検証することもできない。

読みたくない事業者と、読めない事業者。両者の距離のすべてがここにある。株主の交代、利用規約の改定、裁判所の命令を生き延びるのは後者だけだ。まさにこの仕組みを、Data Act と CLOUD Act の衝突 をめぐって検討したことがある。法的な保証は、それを受け入れる法域以上の価値をけっして持たない。一方で技術的な不可能は、どの法域にも依存しない。

非対称

分析はここで居心地の悪い場所に行き着く。

守秘の放棄が問題になるときには処理能力の承認を受け入れる同じ法秩序が、責任が問題になるときには何ひとつ承認しようとしない。

電子的人格は、欧州議会が ロボット工学に関する民事法規則についての2017年2月16日決議 の第59項(f)で提案していた。文言は、もっとも高度な自律ロボットにはいずれ、引き起こした損害について責任を負わせうる地位を認めうると示唆していた。この提案は、数百人の専門家が署名した公開書簡 が反対したのち放棄された。彼らの主要な反論は堅固だった。機械に人格を与えることは、製造者が本来負うべき責任を切り離すための器を作ることになる、と。

こうして立場は固まった。損害を引き起こす自律システムは製品であり、道具であり、それを導入した者の手段である。法人格はない。責任は人間または法人へと戻ってくる。そうするほかない。ほかに戻す先が存在しないからだ。

この二つの命題が、いま同時に動いている。

システムが法的な意味での通知を受け取りうるのであれば、その能力は依頼者から保護を奪うために承認され、同時に、誰にも責任の負担を負わせないために否認されている。あるいはそれが道具であるなら、文書を入力することはファイルをディスクに保存することと同じで開示ではなく、その場合2月の理由づけは崩れる。

ヨーロッパの文脈は、この不均衡を正すどころか強めている。AI責任指令は、2025年2月の欧州委員会作業計画の段階ですでに撤回が告げられ、2025年10月に正式に放棄された 。まさにこの困難を扱うはずの道具だった。残るのは改正製造物責任指令 であり、ソフトウェアとAIシステムを対象に含めたものの、欠陥と損害と因果関係を要求し、自然人を身体損害、財産損害、データの破壊から保護する。国内法化の期限は2026年12月9日であり、しかもその日以降に市場に出された製品にしか適用されない。

予想される反論と、その答え

注意深い読者はこう返すだろう。法はある対象に能力を認め、別の対象には認めないということを日常的にしており、それは不整合ではない、と。動物は人格を持たずに法的に意味のある損害を生じさせうる。会社は契約のための人格を持つが、あらゆる法秩序においてあらゆる目的のために持つわけではない。したがって証拠上の目的で処理能力を認めることは、責任の目的で人格を認めることを誰にも義務づけない。異なる問いには異なる答えがある。

この反論は真剣なものであり、非対称が双方向に働くのであれば決定的だっただろう。

だが働くのは一方向だけだ。システムの能力が採用される場面では、保護を失う依頼者がその費用を負う。同じ能力が責任の配分に役立ったはずの場面では、それは見つからなくなる。結果はつねに同じ側に落ちる。

同じ当事者をつねに利する非対称は、法理上の区別ではない。それはリスクの配分であり、そのようなものとして議論されるべきだ。

具体的に何を意味するか

以上のどれも、法律実務がこれらの道具を手放すべきだと示唆するものではない。ヨーロッパの職業文書もそう言ってはいないし、CCBE 自身がこの主題のガイドを公表している。

示唆されるのはこうだ。決定的な問いは、事務所がどの道具を選ぶかではなく、その道具が何を保持するか、そしてその答えが方針の問題なのか設計上の性質なのか、である。保存しないという約束は、撤回され、読み替えられ、あるいは裁判所の判断で退けられうる。保存しない構造にはそれができない。提出すべきものが存在しないからだ。

この問題を調べたい人のための参照文書:

Arpokrat が取る視点

この推論は法律事務所をはるかに超えて及ぶ。誰かが、二度と表に出てほしくない情報をシステムに預けるあらゆる関係に当てはまり、ひとつの問いに帰着する。保証は約束に立っているのか、それとも不可能性に立っているのか。

これが Arpokrat Messenger の設計を貫く原則である。識別情報は暗号鍵から端末上で生成され、電話番号もメールアドレスも用いず、秘密鍵が端末を離れることはない。この選択は、利用者名簿を利用しないと約束することではない。名簿をそもそも作らないということだ。情報を保持していない基盤に向けられた提出命令は、拒否を生まない。空白を生む。

この区別は正直に置いておく価値がある。すべてを決めるからだ。プライバシーポリシーは、誠実であっても、よく書けていても、ひとつの企業と、その時点の株主と、設立された法域に支えられた意思表明にすぎない。この三つは変わる。収集しない構造は、取締役会が変わったからといって変わらない。いま収集して後で復号する について述べたのと同じ移動である。リスクは約束する時点にあるのではなく、別の誰かが決める時点にある。

法がこの区別を取り込むには時間がかかる。守秘義務をめぐる議論はその良い物差しになる。位置情報の保護 についても同じで、法的構築の大半はデータへのアクセスをめぐっており、そのデータの存在自体が問われることはない。

結論

判例はいずれ落ち着くだろう。控訴審が食い違いを解決し、規制当局が基準を公表し、事務所は委任状と契約条項を調整する。そこに疑いはない。

しかし根本の問いはそれでは片づかない。それは本当は守秘義務についての問いではないからだ。それは、ある法秩序が、物が知っていると認めながら、その知をどう扱ったかについて誰が答えるのかをついに言わずに済ませられるのか、という問いである。

この問いが開いたままであるかぎり、利用者が本当に握っている変数は、与えられる約束の質ではない。存在させてしまう情報の量である。

本稿は議論のための一般的な法的分析であり、意見書でも法的助言でもない。

出典